エゴイスト (2022年) 120分【ネタバレ・考察】自分のためかもしれない愛が誰かを救っている。ゲイによるラブロマンス映画かと思ったらものすごく繊細で美しい人類愛についての映画だった。


ネタバレなし感想

タイトルとパッケージを見たときは、ゲイが主人公の恋愛映画かと思っていました。 『君の名前で僕を呼んで』のような、切なくも濃密な映画なのかな?と思っていたらもう全く違う作品でした。
あと悲しいラストなのかと思って覚悟してましたが、決して後味の悪いラストではなく、ものすごく心が暖かい気持ちになりました。

ドキュメンタリーのような映像で、俳優の演技も本当にリアルで没入感があります。
ものすごく繊細な脚本だと感じました。
そっと心に触れてきて暖かい感じ。
映画でこんな気持ちになったのは初めてです。

受け取り手によってかなり作品の印象が変わりそうだなと思いましたが、観客を置いていかない程度の絶妙な余白を残す美しい作品です。
もう一回観たい。

演技力の大勝利

鈴木亮平の演技力が半端じゃないです。
ドキュメンタリータッチなのも相まって、全員この現実に存在しそうな説得力があります。

映像にうつっていない姿まで想像できてしまうほどの実在感。
こんな繊細な役を演じ切った鈴木亮平が凄すぎます。

この人、狐狼の血で目を潰してた人ですよね?
しかも、パンツ被ったりしていた人ですよね?
どう考えても同じ人には見えないです。
同じ人ですと言われてもなんか騙されてる気になってしまいます。

基本情報

Egoist
エゴイスト
2022年 120分

エゴイスト

製作国:日本

キャッチコピー:愛は身勝手

あらすじ

14歳で母を失い、田舎町で本当の自分を隠して思春期を過ごした浩輔。今は東京の出版社でファッション誌の編集者として働き、自由な日々を送っている。そんな彼がシングルマザーの母を支えながら暮らす、パーソナルトレーナー・龍太と出会い…。

※参照元:U-NEXT


日本版 予告編

英語版 予告編

スタッフ

監督 : 松永大司
脚本 : 松永大司/狗飼恭子
製作 : 明石直弓

キャスト

斉藤浩輔:鈴木亮平
中村龍太:宮沢氷魚
中村妙子:阿川佐和子
斉藤しず子:中村優子
中学時代の浩輔:和田庵
浩輔の友人:ドリアン・ロロブリジーダ
斉藤義夫:柄本明



⚠️ネタバレあり感想⚠️

生きづらさ

地元ではゲイっぽ言動からいじめられていたそうで、地元の連中を豚どもと見下しています。

『このブランドの服が僕をいじめた豚たちから守ってくれる』

突出した能力がないと、多数派に立ち向かってい気ない。
この一瞬でマイノリティの生き辛さがよく表現されていると思いました。

さらに実家は結構な田舎で窮屈ですね。
お父さんはめちゃくちゃいい人みたいですが、浩輔がゲイだということは知らないみたいです。
『お母さんも孫がみたいと思っているかもよ』みたいなこと言っていました。

低すぎる自己肯定感

浩輔はどこか自己肯定感が低過ぎるし、繊細すぎるという印象がありました。

ゲイっぽかったからいじめられ、母親は8年間の闘病生活の末に14歳のときに死別。
自己肯定感をしっかり育むことができなかったのでしょうか。

そして身を守るために様々な感覚を過敏にさせて生きてきたのでしょうか。

浩輔は人を愛することができるし、それを行動でも言葉でも示せる素晴らしい人柄なのに。
もっと自分を大肯定していい人なのに、なんでこんなに謙虚なんだろうと思いながら観ていました。

笑った

序盤の食事制限のために食事の写真を龍太に送らないといけないっていうとき、『気がついたらピザがなくなっているの。だから私が被害者なの。』って言ってたの笑った。
自分が食欲を我慢できないのが悪いんだけど美味しいものを攻めたくなる気持ちわかる。笑

あと、ちょっと誤魔化そうとしていたとき『あの子が傷ついちゃう』って言っていました。
一瞬”ん?”となってしまい、理解が追いつかなかったのですが、”一生懸命サポートしたのに、それを守っていないと知ったらガッカリさせてしまう”ということですね。

私はエゴイストなのかもしれません。
そこまで思考が及ばず、”金払っているし、痩せなかったら食べた私の自己責任だし、彼らは仕事だし”とある種、切り捨ててしまっています。

恋に落ちる2人

歩道橋の階段でキスしたシーンはめっちゃドキドキしました。笑
龍太はなんだかドジっ子で可愛くて母性をくすぐるキャラクターですね。

こんなガッツリと生々しいゲイセックスのシーンは初めて見ました。
すごかったです。
ローションとか使わなくても大丈夫なんでしょうか?

ナニコレ

『私の中には夜がある』って言って歌い始めんの受ける。笑
自分の世界に入っていたね。笑
誰しも一回はやったことあるよね?
気持ちが高まって歌い始めた。笑

2人が交流を深めていくところと気持ちの盛り上がりを同時に見せているシーンでしたね。
歌が下手だったし一回カメラと目が合いませんでした?爆笑しました。

可愛い

ケーキをみんなで複数種類をシェアするって女子っぽい感覚ですね。
いろんな種類を食べたいのもあるし、その味を共有するのも楽しい。
友達と恋バナするところも可愛い。

パパ活詐欺の映画かと思った

龍太は母との生活のためにウリをやっていました。
しかし浩輔への恋心を自覚し、素直に打ち明けて別れを告げました。
ケジメですね。真っ直ぐな人です。

疑ってすみませんでした。
龍太が初めて浩輔と関係を持った日、ブランド物の服や絵をガン見していたので、”金目的!?浩輔騙される展開!?”ってちょっと疑っていました。
すみませんでした。笑

恋から愛への移り変わり

主人公の浩輔は視野が広く想像力に長けており、さらにはコミュニケーション能力も高い繊細な人柄のため、愛の表現を間違えることがなく、非常に愛おしいキャラクターでした。

『一緒に頑張ろう』
このセリフは"あなたの問題は私の問題でもあるのよ"という深い愛情を感じるセリフでした。
恋が愛に昇華した瞬間のように見えました。

全ての愛はエゴ

一方で、浩輔は自分が母親にできなかった親孝行をりょうすけを通じて満たしているように見えます。
与えることで自分自身も救われている、これはエゴなのかというテーマなのでしょうか。
私からするとあまりにも謙虚で献身的で繊細です。
この主人公の葛藤にはそこまで共感することができないほど繊細なキャラクターでした。

全員が幸せになるならそれでいいじゃない。という単細胞にはこの映画を深く理解することが難しいのかもしれない。

金も愛

自分が相手のためにやっていることが必ずしも相手のためになるとは限らないという愛の悲劇的な性質について描いている作品なのかと思っていました。

でも浩輔の愛は金です。
お金も愛ですよね。
実践的で実用的で、龍太のお家が最も必要としていたものです。

しかも金にちゃんと気持ちを乗せていて、その気持ちが相手にも観客にも伝わるので汚さを感じないです。
浩輔の純粋で尊い気持ちが、最も汚いイメージのあるお金で移動しているのが面白かったです。

なんか平和なウリシーン?

なんかウリのシーン、残酷さがないですね。
シャワー浴びようかって手を繋いでいくところがなんか平和。
デリヘルのシーンがあんまり汚く描かれていません。
この映画、悪人が全く出てきませんね。

めちゃくちゃ好きなシーン

母親と3人で食事することになるとは思っていませんでした。
浩輔さん、手土産持って行きすぎなの可愛い。笑

りゅうたまじで背が高いのね。お母さんが小さすぎる。笑

お母さんが料理するのをぼーっとみてるのなんかエモい。
母親を早くに亡くしているから、こういう交流を求めていたのね。
血の繋がりはないけど、お母さんへの愛情を感じたのね。

こんな暖かい映像久しぶりに見たかも

これもしかしてほっこりエンドかもって期待してしまった瞬間でした。
こんな平和な食卓で幸せな映像なかなか観れません。
なんてささやかな幸せ。
3人で写真撮ったりめちゃくちゃいい思い出。
善意100%って感じ。ずっと愛に溢れてる。

そして解散後、何回も振り返ってしまう感じわかる。笑
可愛すぎる。
幸せな晩御飯でしたね。

切ない

自宅に帰って、真っ先にいただいた残り物を冷蔵庫に仕舞おうとする前に、感謝なのか手を添えるところ、めっちゃ切なくなりました。
今まで感じたかった母性に触れることができて感謝している感じ。

なぜかこのシーンを見て、浩輔の亡くなった母親の気持ちになってしまって、自分が作ってあげられなくてごめんねという気持ちになってしまいました。

素晴らしいカメラワーク

お母さんが倒れたという電話を取った龍太。
カメラがグワーンと離れて行きました。
気が遠くなるのをここまで視覚的に表現した作品すごいですね。

『稼いでますから』

っていちいち相手の引け目をなくすためのセリフがかっこいいですね。

『2人でやれるところまでやってみよ?お母さんのために』
ヘルニアの足が悪いお母さんのために車を買ってあげていました。

そして初めての運転で2人で浩輔の実の母との思い出の海に行こうとしていた矢先の出来事でした。

過労死

浩輔は龍太に月20万円を渡していました。
それは龍太に無理をして欲しくないという気持ちと、母親への親孝行を疑似的に行なっているということなんでしょう。

しかし、20万の援助をもらっていながら、龍太は昼は肉体労働の仕事をし、夜は飲食店のキッチンで働いています。
そこまでしてお金を稼がないといけない理由が私にはわかりませんでした。
母親が病弱で働けないということはわかったのですが、20万あれば2人で生活していけます。
難病で高額な医療費がかかるというわけでもなさそうだったのでこの点が引っかかりました。

お葬式だ

死んだ顔してた。こちらも同じ気持ちでした。
全く頭の整理がつかない。どういうこと?なんで?何が原因で?ちょっと頭がパニックになっていました。

しかも、思い出の海に行く当日に。

動揺が抑えられないけどなんとか平然を保たないとと思ってもうまくいかなくて号泣し始める演技がすごかった。
この時の浩輔を誰か抱きしめてあげてくれないかと思いました。
ここの演技のリアリティがすごすぎる。
公然の恋人でないからこそこういうリアクションになるんだろうなというリアリティ。
一緒に泣きました。

ゲイであることってそんなにいけないことですか?

あの3人での夕飯のあと、
『あの人、あなたにとって大事な人なんでしょう?』
と聞いたら、りゅうたは何度も『ごめんなさい』と謝っていたそうです。

浩輔の母親が病室で『お嫁さんもらうまで元気でいないとね』と言っていました。
母親や父親の”孫がみたい”という期待に応えられないという罪悪感を抱くものなのでしょうか?

彼らのような素敵な人たちが、ゲイであるだけでこんなにも自己肯定感を抱けないような世の中なんですか?
悲しすぎるんですけど。普段どんな思いで生きてきたんだろうと思うと胸が苦しかったです。

天国

天国を信じる?という話がありました。
浩輔の愛情によって、龍太は天国はあるかもしれないと思えていたみたいです。
浩輔凄すぎませんか。殉教者でもないのに。

龍太の父親は龍太が小学生の頃に実家に女を連れ込むくらいのクズでした。
しかも母親と別れた後は金の無心を母親にしてくるくらい人間性が腐っていました。
そして母親は病弱。生活を支えるために高校を中退して働き、ウリにまで手を出していました。

あんなに爽やかで純粋そうなので忘れてしまいますが、かなり壮絶な人生です。
龍太にとって、浩輔と一緒にいた時間が人生で一番幸せだったんじゃないかと思います。

浩輔はエゴイストなのか?

この映画にエゴイストって出てきましたか?

浩輔は龍太と一緒にいたいから、金銭的支援をすることにしました。
さらには龍太の母親を通じて、自分の母親への親孝行も果たしていたように思います。

確かに自分のためといえば自分のためなのかもしれません。。
利己的といえば利己的なのかもしれませんが、結果的に龍太は
『俺は浩輔さんに救われたんだ。この世界、地獄だけじゃなかったんだ。』
って、お母さんに言っていました。

浩輔ってエゴイストですか?
むしろマリア様のように慈悲深い人だなと思いました。

口座の残高

ちょっとシンドラーのリストを思い出しました。
もっとできたことがあったのにと悔やむところ。
龍太母に同居を提案する際に残高を確認していました。
映画の展開的には金銭援助が厳しくなってきたというシーンだとは思いますが、
残高が残ってることが悔しいですね。

龍太は突然死でした。
全く、他の病気の描写が無かったので過労死のようです。

もっと支援していればどうにかなってたかもしれない、という気持ちにもなるだろうと思いました。

ちょっとよくわからなかったところ

お母さんに癌が判明したとき、
『ごめんなさい、僕のせいです。』
と言っていました。どうしてそう感じたんだろうと思いました。
りゅうたに働かせすぎたから。お母さんの病気にも気が付かなかったということなんでしょうか。

調子が悪いと言っていたとき、ヘルニアと診断を受けていましたが、血液検査はしなかったのでしょうか。

ほんの数分しか出ていないお父さん

柄本明ってやっぱりすご過ぎる。
ほんの一瞬しか出ていないのに、本当に印象に残る。

本作では、浩輔が父親にしっかり愛されてるのが伝わります。
泊まっていくとなったらすぐに晩飯作り始めるの。笑
お父さん可愛い。笑

『お母さんが病気になった時大変だった?』
『大変だなんて思ったことはなかったよ』

もう遺伝ですね。愛に溢れる遺伝子を浩輔は持っているんですね。
お父さんも愛に溢れている。

もうそれでいいじゃない

深く考えても脳みそを有線で繋げない限り確信はどこまでいってももてません。

『あなたに迷惑をかけたくないから別れてほしい』
『俺のことが嫌いだったら別れてやる。そうじゃなかったら二度とこんな話するな。
出会っちゃったんだからしょうがない。しょうがないこらこのままやっていくしかないだろう。』

『私たちが愛だと思っているんだからそれでいいんじゃない』

愛とはなんなのかという着地点がものすごく切実で現実味のあるものだと思いました。

いちいち美しい脚本

『天国では浩輔のお母さんがりゅうたの面倒見てくれているわね。』

お母さんの作ってくれたご飯をここで食べるんだと思いました。
なんなんだこの映画。美し過ぎるでしょう。

美しいラスト

『ねえ、まだ帰らないで』
『はい』

これ以上にないラストでした。
浩輔が何かに許されたかのようにも見えました。
解放されたというか。

登場人物たちの心が触れ合っているのを感じる名作でした。
もう一回観たいかも。


参考サイト