シンシン/SING SING (2023年) 107分【ネタバレ・考察】「グリーンマイル」、「ショーシャンクの空に」を圧倒的に凌駕する刑務所映画の傑作。綺麗事に頼らず、地に足が着いた切実な刑務所映画。その場にいるかのようなリアリティ。痛みも温もりも描かれており、魂を感じる名作。


ネタバレなし感想

宣伝文句で「グリーンマイル」や「ショーシャンクの空に」が使用されていますが、上記2作品より圧倒的に素晴らしかったです。
個人的にはNo.1の刑務所映画です。

個人的には上記の2作品はあまりにも現実離れしている印象だったので全く刺さりませんでしたが、本作はブッ刺さりました。
本物の元収監者が出演していて、さらに長回しのシーンが多く、カメラのブレもドキュメンタリーかのようで、とにかくリアリティが凄いです。
あと噛んでいるシーンもそのまま使われていました。
しかも噛んでいるシーンの俳優を調べたら元受刑者ではなくプロの俳優の方だったので、見終わった後に笑いました。

キャスト情報は確認せずに観てほしい

本作には元収監者が出演しています。
プロの俳優と元収監者が混ざって演技をしています。

本物の元収監者がプロの俳優に太刀打ちするって相当難しいはずなのに見事に見分けが付かなくなっていました。
その逆も然りです。
とにかく本作はドキュメンタリーを観ているのかと見間違うほどのリアリティがありました。

誰が受刑者で誰が俳優なのか、予想してみて欲しいです。
公式のキャスト欄は確認せずに観に行った方が楽しめるかもしれません。
私は観ることが確定した段階で確認したはずなのですが、鑑賞する頃には忘れてしまっていた鳥頭なのでより一層楽しめた印象です。

この映画で出てくる主要な人物の半分くらいが元収監者なのですが、誰が俳優で誰が元収監者なのかわからないくらい、全員がものすごくリアルな素晴らしい演技をしていました。

思っていたより穏やかな展開

本作は徹底的に収監者の内面にフォーカスされています。
人との触れ合いや、それによる心の変化が描かれます。
派手な演出は無く、エンタメ性は低いかもしれません。
その代わりに圧倒的にリアリティが高いです。

ザ・アメリカの刑務所映画を期待して、暴力や人間関係のいざこざを期待して観に行っていたら途中で寝るかもしれません。

暖かくも痛みを感じる空気感

思わず微笑んでしまうシーンがちらほらありました。
映画全体の空気感が暖かく、穏やかなのですが、そこには確かに痛みが存在しており、ヒリヒリします。

事前情報:RTA

RTA(Rehabilitation Through the Arts)は1996年にキャサリン・ボッキンズによって設立された非営利団体です。

刑務所内で演劇、音楽、ダンス、視覚芸術、執筆、詩などのアートワークショップを230人以上の受刑者に提供し、本作の舞台であるシン・シン刑務所を含む10ヶ所の刑務所で活動しています。

アメリカの平均再犯率が60%を超えているのに対し、RTA参加者の再犯率は3%未満です。

本作ではRTAの演劇セッションに参加する収監者たちの様子や心の変化が描かれていきます。

引用元:Rehabilitation Through the Arts - Wikipedia

サインを求める男

この男のことを覚えておくと後でビックリします。
ネタバレの方に記載しておきますね。

基本情報

Sing Sing
シンシン/SING SING
2023年 107分

シンシン/SING SING

製作国:アメリカ

キャッチコピー:死ぬのは簡単だ、喜劇は難しい。

あらすじ

NY、<シンシン刑務所>。無実の罪で収監された男ディヴァインGは、刑務所内の収監者更生プログラムである<舞台演劇>グループに所属し、仲間たちと日々演劇に取り組むことで僅かながらに生きる希望を見出していた。そんなある日、刑務所いちの悪党として恐れられている男クラレンス・マクリン、通称“ディヴァイン・アイ“が演劇グループに参加することになる。そして次に控える新たな演目に向けての準備が始まるが――。

※参照元:公式サイト


日本版 予告編

英語版 予告編

スタッフ

監督 : グレッグ・クウェダー
脚本 : クリント・ベントリー/グレッグ・クウェダー
製作 : モニーク・ウォルトン/クリント・ベントリー/グレッグ・クウェダー

キャスト

ジョン・“ディヴァイン・G”・ウィットフィールド:コールマン・ドミンゴ
クラレンス・“ディヴァイン・アイ”・マクリン(本人役)
マイク・マイク:ショーン・サン・ホセ
ブレント・ブエル:ポール・レイシー

<その他本人役>
デビッド・ダップ・ジローディ
パトリック・"プレム"・グリフィン
モシイーグル
ジェームズ・「ビッ グ E」・ウィリアムズ
ショーン・ディノ・ジョンソン
ダリオ・ペーニャ
ミゲル・バレンティン
ジョン=エイドリアン・"JJ"・ベラスケス
ペドロ・コット
カミロ・「カーマイン」・ロヴァッコ
コーネル・「ネイト」・アルストン

ポスター/パッケージ



⚠️ネタバレあり感想⚠️

本人がカメオ出演

最初にディヴァインGにサインを求めた男は実在の人物、ジョン・”ディヴァイン・G”・ホイットフィールドです。
まさかの本人でした。

何この演技力

まず、RTAに参加していた元収監者ということはわかるんですが、本物の俳優と見分けがつかないのはなんなのですか。

一部シーンでは演技を超えて1人の人間として魂の叫びを見た気がします。
私は呆然としてしまいました。

序盤のオーディションのシーン、”演技が下手"という演技までしっかりこなしていました。
観終わった後に改めて誰が俳優で誰が受刑者なのか確認したのですが、改めて双方の演技力に感動しました。

その場にいるような臨場感

演劇の内容を決めるミーティングから世界観に惹き込まれました。
自分も会議に参加しているかのような気持ちになります。

このグループはあくまでも上下関係はない様子ですが、主人公のディヴァインGが開催や人員の確保などの運営を行っている様です。
そしてかねてより何か脚本を準備しているようで、完成はしていない様ですが、社会風刺系の脚本を持っています。

仲良しのマイク・マイクがディヴァインGのことが大好きみたいで、その劇をやろうということになったのですが、新入りのアイがコメディ演劇を提案しました。

お互いを尊重している

今までのハリウッド映画ならここで対立させたり、誰かに軋轢を生むような発言をさせて、ディヴァインGとアイの関係を悪化させるような演出をするでしょうが、本作は全くそんなことはありません。

お互いがお互いを尊重しています。
コメディを提案したアイも、"みんなの意見に反対するわけじゃないんだけど"と前置きをした上で提案し、なぜコメディがいいと思ったのかを述べます。
コメディが1番難しい。

ディヴァインGはどちらかというと真面目なタイプのようで、ちょっと戸惑いますが、コメディに賛成します。

そして全員の投票によってコメディになることが決まります。
平和です。

素質があるディヴァイン・アイ

ディヴァインGがスカウトしたときもディヴァイン・アイはたまたま昔「リア王」を読んだことがあり、内容は忘れた様ですが1フレーズを覚えていました。

“人間が生まれるときに泣くのはな、この大いなる愚か者の舞台に上がってしまったからなのだ。”

自分と重ね合わせていたから印象的だったんでしょうか。
本作では登場人物の具体的な過去は描かれませんが、環境に恵まれなかったんだろうなと思いました。
ディヴァイン・アイは非常に賢い印象です。

オーディション

とんでもない速さで演出家のブレントが脚本を仕上げてきました。笑
全員の要望を取り入れたため、話の生合成は取れていない様ですが、コメディなので問題ないとのことです。

そしてオーディションが行われ、それぞれの人物の顔や名前を見せてくれます。
登場人物がそこそこいるのでありがたいですね。

顔面タトゥーニキのセリフ

『人生ずっと演技さ』

まさにそうですね。
みんな毎日何かしらの演技をしながら生きています。

嬉しくもないのに喜ぶ素振りを見せたり、楽しくないのに楽しそうにしたり、イライラしているのに平然を装ったり。

この顔面タトゥーニキはどこか諦めたかのようにこのセリフを言っていた気がします。
今まで否定されてきたんだ、本当の自分を隠して生きてきたんだと言っているようでした。

まさにマスクをかぶっているかのように顔にタトゥーを入れている彼の人生に思いを馳せてしまいます。
その一言で彼の苦痛が伝わる凄いシーンでした。

ものすごく印象に残っているシーンです。

このプログラムに懐疑的なディヴァイン・アイ

参加してみたのはいいものの、バカバカしく思えて苛立っています。
これを行うことで自分に何かいい影響があるとは思えていない様です。

そりゃそうか。一番最初に見たのが”宝くじに当たったらどんな歩き方をするか”と”ゾンビはどのように歩くか”というものすごくバカに見える場面ですから。

バカバカしくなるのも当然かもしれません。
しかし、演技のワークショップなどでは恥を拭い去るためにこういう変な動きや言動を敢えてやってみたりするみたいですね。
友人から聞いたことがあります。

歩み寄るディヴァインG

ディヴァインGはアイを気に掛けて積極的に関わります。
苛立っていそうなら話しかけに行くし、彼の仮釈放の申請の手伝いもします。

話を聞いて寄り添い、助言し、やる気にさせ、まるで父親かのように世話を焼いてあげます。
めちゃくちゃ父性を感じました。

更生のプロセス

自分の感情を思い出し、言語化し、アウトプットすることで自分自身を向き合っていました。

そして演技を通じて感情をコントロールする方法を覚え、それを日常でも行えるようになるというものでした。

私たち観客にも通ずるプロセス

演劇を通して更生していくという内容ですが、その仕組みは映画を観ている私たちや、私たちの現実にも活用できるような内容でした。

映画を観て様々な感情になり、それを娯楽として楽しんでいます。
自分と重ねたり、今までなったことない感情になったり、トラウマティックな感情になったり、怒りを覚えたりします。

自分を解放することは自分を受け入れること

アイは自分がギャングだったために、息子もその影響を受けて刑務所に入ってしまったと思っていました。
自己否定が止まらないと。

とある収監者は『俺はこのクズが集まっているここが居場所』と言っていました。
この自己否定が、更生を妨げているということが本作では明確に描かれ手いたと思います。

誰も誰かを否定するような発言をしません。
みんな穏やかで相手を受け入れており、受け入れられています。
この自己肯定感が重要なんだろうと思いました。

ステージは現実逃避

演技をしている時は現実を忘れて楽しむことができると言っていました。
そうか。序盤で変な歩きをしていた時、みんなまるで子供かのように楽しそうでした。

現実に目を向けてしまうと自己否定の気持ちや、ネガティブな気持ちになってしまうのですね。

観ている私にとっても映画は現実逃避です。
こうして重なるところが所々あって、ヒリヒリしました。

素晴らしい勇気

2人目の主人公、アイですが、彼を演じたクラレンス・マクリンは元受刑者です。
17年の刑に服しており、RTAプログラムを実際に行ったそうです。
素晴らしい演技をしていました。
しかし目の奥の暗さは隠せておらず、異質なオーラを放っていました。

全世界に公開される映画で、元収監者として出演するというリスクを取って素晴らしい作品を残してくれたことに感謝。

脚本の配慮

実際のところはわかりませんが、本作は元収監者への誹謗中傷への配慮でなんの罪なのか明確には触れられていなかったように思います。

他の刑務所映画なら、収監者たちが自己紹介がてら罪状を言い合うみたいなシーンがある印象ですが、本作は一部の人たちの過去は描かれません。
罪状を伏せたままにしているのは、彼らの今後の人生を配慮したからなのでしょうか。

首切られニキ

『人間に戻るためのプログラムなんだ』

という台詞、心から離れません。
このシーンは演技なのかの境目がわからなくなるほどの悲痛で切実なシーンでした。
自宅で観ていたらかなり泣いていたと思います。

社会のシステム

主人公のディヴァインGは自分にも他人にも希望を持っています。
そのため、いろいろ調べて周りの収監者に仮釈放の申請をするための資料を集めたり、エッセイを書くのを手伝ったりしています。

アイは『まだこの社会の仕組みを信じているのか?』みたいなことを言っていました。
それに対しディヴァインGは『やってみないとわからないだろう』と説得していました。

笑ったシーン

この仮釈放申請なんて無駄だと思っているアイを説得するために
『お前はオオカミだ!オオカミ!』って言ってたのには笑いました。

アイも”オオカミと言われましても”っていう反応をしていました。笑
シュールだった。笑

親子のように見えた

アイは作中、母親の話はしていましたが父親の話は出てきませんでした。
ディヴァインGがお父さんのように向き合ってあげていて、無償の愛を注いでいたように見えます。

しかしびっくりしました。
これ演じている役者の年齢は逆なんですね。

ディヴァインGを演じているコールマン・ドミンゴは1969年生まれでアイ役のクラレンス・マクリンは1966年生まれでした。
アイの方が3歳年上だったんだ。
子供のように見えていました。

Piggy現象と勝手に呼んでいるのですが、最初違和感があっても見ていると役者の演技で違和感が無くなっていくという。

突然死

マイク・マイクが突然死した時は驚きました。
しかも脳動脈瘤でした。

この時、”そうか、自殺じゃなくて病気だったのか。仕方ないな”と私は思ったのですが、他の収監者が『自殺や他殺なら理解できる。でも病気で突然死なんて受け入れられない』と言っていて驚きました。

刑務所の中ではそれが当たり前だから、病死の方が納得できないと思ったということですよね。

苦しかった面談シーン

「ショーシャンクの空に」のアンディーは曖昧でしたが、ディヴァインGは冤罪なのが確定しています。
その証拠も自分で調べて持っています。

面談で自分は無罪で本当の容疑者の証拠があると伝えたものの、『その容疑者が亡くなっているから真実を確かめようがない』と言われてしまいました。

さらにRTAについて説明をしたら『あなたは今も演技をしているの?』と。

”伝えたいこと、訴えたいことはたくさんあるのに、今食ってかかって発言したら、きっと攻撃的であるとみなされてより不利になってしまう”
という気持ちが顔の演技だけで伝わってきました。

人権ないじゃん。
そうか、収監者って人権がないのか。

周りに希望を与えていたディヴァインGの希望が砕け散った瞬間です。
まさに地獄に叩き落とされた瞬間でした。

人を壊すのは絶望

ディヴァイン(divine)とは、英語で「神の」「神聖な」「非凡な」「すばらしい」を意味します。
文字通り聖人かのように振る舞っていたディヴァインGですが希望を奪われた後、やるせない怒りが込み上げてしまい、仲間の前で爆発してしまいました。

そりゃそうなるよね。

支え合う様子

アイが心を開いていく過程が丁寧に描かれていました。
最初は支えらえていたアイが最後はディヴァインGを支えた展開は素晴らしかったです。

芸術性のある映像

序盤から結構センスが炸裂していました。
あの点呼の列の構図や、螺旋階段を下から撮る映像や、ディヴァインGのお気に入りの場所、隣のマイク・マイクと話しているときに小窓から覗いているように撮ったり、塀の上についている有刺鉄線を枠の内側から撮っていたり。

センスを感じる映像が多くて楽しかったです。

切り捨てが素晴らしい

劇は見せてくれないんかい!とは思ったけどダイジェストは見せてくれたのでその辺もわかってんなと思いました。
本作は更生のプロセスが最も重要なため、演劇のシーンは比較的少なめです。

しかし最後にダイジェストで見せてくれます。
程よい塩梅でした。

私と変わらない人なんだと思ったシーン

『目を閉じて、一番幸せだったころを思い出して、そこにいるかのように想像して。場所は?日時は?温度はどれくらい?屋外?屋内?』

というセッションの際、私も彼らと一緒になって幸せだった時のことを思い出しました。
その後、1人1人がそれぞれの思い出を語るのですが、このとき、私もその場にいるかのような気持ちになったし、彼らも大して私と変わらないんだと思いました。

名シーンだったと思います。

何も覚えていない2回目のシーン

マイク・マイクが亡くなった後でしたっけ?面談が絶望的だったときでしたっけ?

何か大きな出来事の後だったと思うのですが、全く内容を覚えていません。
多分対比になっていたような。もう1回観たい。

言葉にならないラスト

これ最後どうなるんだろうと思ったらハッピーエンドで心底安心しました。
ディヴァインGの無罪が証明され、釈放されたときの表情には言葉にならない感動を覚えました。
本当に素晴らしい演技でした。

アイが車で迎えにきてくれているのもよかった。
最高のエンディングでした。

曲が最高

本作で唯一エンタメ性を感じたのはエンドロールです。
音楽が素晴らしい。
しかもここで少し劇中劇を見せてくれます。
サービスもしてくれて軽やかに劇場から送り出してくれるエンドロールでした。

余談

予想と違った内容

完全に私の予想は外れました。
私はてっきり、演技をして、誰かになり変わることによって共感したり、想像力が培われて更生していくのかと思っていました。

ほんと今まで何のために映画を観てきたんだと思いますよ。

とある映画で
『水爆は内側にエネルギーが向かうことで爆発するんだ』
って言ってたじゃない。
前に進むために向き合うのは、社会でも他人でもなくて自分なのよ。

私は"ケーキを切れない少年たち"の印象が強すぎたみたいです。
17歳のカルテでも、3人のキリストでも、すばらしき世界でもそうだったじゃない。
向き合う相手は自分なんだよね。

相変わらず人を見る目がないワタクシ

私はディヴァインGは俳優、
アイは元収監者、
顔面タトゥーニキは元収監者、
マイク・マイクは元収監者
首切られニキは元監修者、
演出家は俳優
その他はみんな俳優だと思っていました。

実際はディヴァインG、演出家、マイク・マイクと最後に少し出演した愛犬のピットブルを安楽死させたニキは俳優でその他のメインメンバーはみんな元収監者でした。


参考サイト